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GOLDカルチャー担当 山路美佐の食べる、旅する、仕事する。

2015/04/17 UP 一人の情熱が築き上げた 美しきアートの島

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みなさん、こんにちは。
GOLD5月号、もうお手にとって読んでいただけましたでしょうか?

この5月号で、私は、日本最初の国立公園に指定された瀬戸内へ旅のテーマの取材に行ってきました。 行き先は、アートを楽しみに訪れたい、直島、豊島(てしま)、高松。そして美食の牛窓、赤磐。絶景の倉敷、尾道。

“多島美”を望む絶景、のんびりとした空気、美味しい地元の食事・・・と すっかり瀬戸内の素晴らしさに魅了されてしまいました。

なかでも、一番印象に残っているのは、直島・豊島です。
きっとGOLD世代の方々であれば、“現代アート”に触れに訪れたことがある方も多いでしょう。私はそこで、現代アートの面白さのみならず、日本の自然の美しさ、豊かさ、生きるということ、守るべき環境・・・・・・本当にいろいろと感じて帰ってきました。 %3CatariName%3ENC-042.jpg%3C/atariName%3E%3CajstAnlge%3E0%3C/ajstAngle%3E

地中美術館 撮影/大沢誠一

今や現代アートを体験する“島ホッピング”の旅を目的に、世界中からアートファンが 集まる瀬戸内の島々。

「瀬戸内国際芸術祭2013」では、直島・豊島を始めとする12の島々と2つの港が会場となり、訪れる人々を魅了しました。なかでも直島は、地中美術館開館の2004年に10万人だった来島者が、2013年の芸術祭年には70万人に上ったということからも、その注目度は感じられます。そもそもなぜ、この島がこのような「アートの聖地」となったのかご存知でしょうか?

その始まりは、現株式会社ベネッセホールディングス最高顧問の福武總一郎氏が1988年に発表した、「直島文化村構想」。

これは当時、急逝してしまった創業者の福武哲彦氏が描いていた、直島町長と約束したキャンプ場創設の遺志を福武總一郎氏が引き継ぎ、直島に“人と文化をそだてるエリアを創生する”というものでした。そしてそこには、福武氏の強い強い、ある思いがあったといいます。

「直島文化村構想」が発表された1988年当時、美しい瀬戸内の海の景色の陰で、直島は1917年に建てられた銅製錬所の煙害の影響で緑が失われていっていました。
「瀬戸内の美しい自然を取り戻し、世界一の芸術の島にしたい」。その思いが、瀬戸内の美しい自然とアートそして建築の融合をさせる試みとなり、1992年どこにもなかった“美術館とホテルが一体となった施設”として「ベネッセハウス」がオープンしたのです。

設計は安藤忠雄氏。館内のアートは福武氏のコレクションが飾られました。

その後、この試みは建物の中から飛び出し屋外へ。「Open Air ’94 Out of Bounds」という 美術展を屋外で展開 したことを機に、直島ならではのアートの形が生まれていきます。 ただ単に作品を持って来るのではなく、アーティストを招き、直島の美しい自然、昔ながらの街並み、その場所の光などを生かした場所を彼らに選んでもらい、ここにしかない作品を作ってもらう。そして、その作品をその場に永久に置いておく。この“サイトスペシフィック・ワーク”という手法がその後の直島のアートの基本となって行ったのです。

その発展形がもともとあった民家の空き家などを利用して、アーティストが作品にした「家プロジェクト」。現在7軒あるその作品は、どれも敷地内に入ることができ、作品を体感することができます。%3CatariName%3ENA-007.jpg%3C/atariName%3E%3CajstAnlge%3E0%3C/ajstAngle%3E %3CatariName%3ENA-008.jpg%3C/atariName%3E%3CajstAnlge%3E0%3C/ajstAngle%3E

家プロジェクトの1つ。老朽化していた「護王神社」を現代美術家の杉本博司氏の設計で再建。
「護王神社」杉本博司〝Appropriate Proportion〞 撮影/杉本博司

どれも、現代アート初心者でもわかりやすく、驚きと発見がある。 頭ではなく、身体全体の感覚でその面白さを感じることができます。

この感覚は、2004年にオープンした地中美術館でも感じることができます。
地中美術館は、安藤忠雄氏が「自然を尊重し、風景を損なわないように地形を生かして、建物を埋め込むように配した」美術館。塩田があったという丘の下に埋められるように 建っています。そして、この建物は、作品ありきで建てられているということが ユニーク。アーティストと建築家がコラボレーションし、その作品をどう配置したいか、 どう見せたいか、天井の高さ、光の取り入れ方、床の材質、ひとつひとつをきめ細やかにやりとしり、一つの美術館となっているのです。

三人のアーティストのみの美術館ではありますが、どの作品もとても印象的。なかでも最も印象的だったことを一つあげるとすれば、モネの「睡蓮」の作品がある真っ白い部屋に靴を脱いで入ると感じる、ある種の浮遊感でしょうか。%3CatariName%3ENC-021_l.jpg%3C/atariName%3E%3CajstAnlge%3E0%3C/ajstAngle%3E

クロード・モネ・スペース 撮影/畠山直哉

足の裏に感じる床の感触や自然光が入る柔らかい空気、その中で遠くから見る「睡蓮」。パリのオランジュリーや、マルモッタン美術館で見たのとはまた違う、身体を包み込む空間ごとで感じるなにか・・・。言葉にできない、けれど強いメッセージを感じたのは間違いありません。

この地中美術館がオープンして、直島は一気に世界から注目されました。

また、直島の魅力はアートだけではありません。家プロジェクトを回ったり、地中美術館のカフェから景色を眺めたりしているうちに、直島の自然の豊かさ、素朴な島の温かさを実感することができます。このかつては禿山だったという島も、今は緑溢れる自然があります。素朴な島の人々の生活があります。アートを“体感“し、自然のリズムのなかで自分の本来の感覚を取り戻していく、そんな体験ができるのです。

その後も、福武氏は2008年、80年以上前に閉鎖した銅製錬所を美術館にした「犬島精錬所美術館」、2010年には産業廃棄物の不法投棄が問題になっていた豊島に「豊島美術館」を開館。美しい自然と、忘れ去られてしまっている人間が作り出してしまった影。 そこに光をあて、アートというものを通して、見るものにゆだねる場所を作り続けています。

一人の人物の情熱が一つ一つ積み上げられ、結実し、そして進化していって現れたのが 直島を始めとする「アートの聖地」の瀬戸内の島々。その深い深い思いと、一人の人間が成し得る壮大なことに、これほど圧倒され、感動したことはなかったかもしれません。 ただ、芸術を鑑賞するだけにとどまらない、その先にいろいろな考えや思いを喚起してくれる時間。ぜひもう何度でも訪れて、再体験したいと思いました。

瀬戸内特集掲載のGOLD5月号はこちら>>

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